ドイツ・レストランFumi(ダイデスハイム)元スタッフ被害者の実録記

※ タイトル背景画像:社長自らが一方的に自宅まで押しかけ、ドア外側に張り付けた「不当解雇通知」。弁護士を通じて解雇制限訴訟に踏み切り、不当解雇撤回を勝ち取った。

カテゴリ:ドイツ労働法あれこれ > 有給休暇・病欠

パワハラでうつ病_その1 の続き

・2018年10月12日(金)正午

 すべての話は弁護士を通すよう、社長に伝えた直後、社長が一方的に自宅へ押しかけ、妻の不当解雇通知を自宅ドアに貼り付け、「受け取ったことの証拠写真」を撮影した内容がわからない書類にサインをするな!受け取るな!【その1】参照)
 その直後、妻はあまりのストレスにより切迫早産を起こしかけ、病院へ駆け込んだ。

 あまりに狂気じみた、異常な出来事に、自分自身も混乱した。
 妻が、この社長の行動について弁護士に相談するも、「状況は理解するが、これだけでは法廷に持ち込んでも切迫早産を起こしかけた原因が社長の行動であることを立証するのは難しい」という見解だった。

 こんな理不尽なことがあっていいのか。
 こんな横暴な行いが、裁かれないのか。
 こんな事があって尚、自分はこの社長のために出勤しなければならないのか。

 その夜はいつまでも寝付けず、憤りは益々込み上げてくるばかりだった。

 仮に独り身であれば、即辞表を出したところだが、幼稚園や小学校に通っている子どもたちの事情もあり、また、当時はただでさえ公的扶助の対象になるほど収入が低く、家族を抱える身として即辞表、というわけにはいかない、非常に屈辱的な状況だった。


・10月13日(土)10時前
 
 翌日、出勤時間が近づくと、前日の出来事に対する怒りで全身が震えていることに気付いた。

 妻はいまだ医師から自宅安静を命ぜられていた。
 週末で学校や幼稚園もないため、子どもらは在宅である。
 絶対安静で身重の妻、放っておいては重大事故もあり得る未就学児の子どもらを抱え、自宅に留まりたかったが、たいへん心ある当時の料理長に迷惑をかけることが憚られ、とりあえず出勤した。

 しかし、いざ職場の前に辿り着くやいなや、前日に社長がドイツ人男性を引き連れて押しかけ、自宅ドアに不当解雇通知を張り付け、写真まで撮られた光景が頭から離れなくなり、動悸が激しくなった。
 再び、社長と顔を合わせることを考えただけで手が震え、もし社長がこの場に突然現れたら、過呼吸でも起こすのではというほど、危険な状態だったと思う。

 職場であるキッチンは、客席(ホール)側の出入り口があるが、そこからいつものようにホールスタッフの足音が耳に入る度、社長が来たのではないか、また社長が来るのではないかという不安と恐怖が蘇り、手の震え、吐き気とともに腹痛までひどくなり、まともに仕事ができる状態ではなくなっていた

 さらに、また、自分が仕事で不在であることをいいことに、社長とドイツ人男性が再び、自宅に突撃するのでは、と思うと気が気ではなく、仕事はまったく手につかなくなった。

 その状態を見かねた料理長が、厚意により早退を命じてくれた。


・10月14日(日)
 
 それまで約1年、Josef Biffarで働いた経験から、社長が日曜に出社してくることはないとわかっていたので、日曜は何とか業務をこなした。
 しかし、パフォーマンスは著しく低かっただろうと思う。


・10月15日(月)午後

 月曜日は店の定休日なので、レストランのスタッフは全員が休暇日となる。
 しかしながら、会社組織は通常営業なので、どこか遠くに出張に行ったりしていない限り、むしろ社長は出勤してくる可能性が高い。

 そう考えると、午後から夕方になるにつれ、再び例の光景がフラッシュバックし、自宅を出たところで社長とすれ違う可能性を考えただけで手の震えと吐き気が抑えられなくなった。
 頭痛と吐き気のため、夕食の買い出しのために近所のスーパーへ行くのも困難な状態となった。


・10月16日(火)午後

 火曜日になり、とりあえず出勤するものの、あまりの頭痛と吐き気で、立っているのがやっとだった。
 いまだかつて経験したことのないほどの体調不良から、空き時間に近所の病院に行き、12日(金)に起こった不当解雇通知張り付け事件の一部始終を報告し、それが頭から離れず苦しめられていることを伝えた。

 医師によれば、
 「職場上司の精神的圧力による体調不良」
 との事だった。
 
 ちょうどこの日の朝、
 非常に幸運なことに、我々の状況、事情を把握していた長年の友人の助けもあり、別の仕事を紹介してもらい、新たな職場が決まったところだった。

 そのため、医師には、もうJosef Biffarにはこの日のうちに辞表を提出するつもりであり、したがって残りの勤務期間は約4週間であることを伝えた。

 すると、医師の判断により、残りの期間の就労不能証明書(↓画像)が発行された。

夫就労不能証明書1夫就労不能証明書2

※2つ目は本人控えである。2つ目の勤務先提出用は提出してしまった。

 労働者の、というよりもプライバシーの権利を保護する名目から、勤務先に提出する就労不能証明書には病名や病状、病気の原因、快方するかどうかなど、一切の情報は記されない
 単に、就労不能期間が記されるだけである。
 
 このように、社長や上司からのパワハラによる体調不良でも、医師が認めれば就労不能証明書は発行される。
 そして、もちろん、この期間の給与は全額保障される。

 つまり、我々が受けたような横暴な仕打ちをしてくる経営者に辞表を出したならば、その瞬間から退社する日まで精神的苦痛と屈辱を受け、体調を崩しながら出社する必要はまったくないのである。

 欧州、とくにドイツでは、労働者の様々な権利が手厚く保護されている。

 権利が保護されているということは、例えば、違法行為があったからとの理由でどこかに訴え出る場合はもちろんのこと、そのほか退職や休暇の取得などについても、かなりの範囲で労働者側に有利になるような選択権が付されている。
 という事は、雇用主が横暴であったり賃金をピンハネしたりするのは問答無用のこと、それ以外の細かい事々についても、なるべく労働者が働きやすい職場環境を整える必要がある。
 有体に言えば、労働者側が雇用主や上司に対して反旗を翻さないよう、細心の注意を払う必要がある。

 そして、それができなければ、人を雇ったり、上司として人の上に立つ資格はない。
 それが、欧州の労働における、基本原則であるように、筆者は思う。

 ドイツや飲食店に限らず、欧州で事業を営む知人や経営者と話をすると、皆が異口同音に言う。
 「労働者に嫌われたら、その組織は終わり」
 「(欧州では)労働者と対立してしまう人は、経営者として失格」
 「たとえ、客観的に見て、経営者側に非が無かったとしても、労働者側の方が強い場合が多々ある。だから、決して変なことはできない。何か起こらないように、かなり細かいことにまで気を配る」
 「人事管理できない人は、人の上には立てない(=出世できない、管理者になれない)」
 と。

 もし、上記のように、経営者として失格だったり、管理能力が無いのに上司になってしまったり(日本では、こういうことがよくあるのだが)する場合、経営者側としては大変困る方法で、労働者が退職したり、急遽休暇を取ったりする。
 しかし、それは労働者にまったくもって許された権利なのである。
 つまり、単に経営者側、上司側に経営する資格、マネージングする能力が無かった故に、もたらされる、“経営者側にとっての” 悲劇であり、言わば “自業自得” だと言えよう。

 さて、ここまでが一般論。

 このような悲劇が実際に起こるとどういうことになるのか?

 Josef Biffarで、起こったある事件がそれを示唆する一つの事例になると思うので、それを、パワハラでうつ病_その2 で詳しく紹介しよう。

 ドイツにおいて勤務先を病欠する場合、勤務先の許可は一切不要である。

 加えて、被雇用者は「病欠」であることのみ、勤務時間開始前の報告義務があり、具体的な病名や病状は個人のプライバシーにあたるため、一切報告義務はない
 かつ、勤務先が病名や病状について問い質すことは禁じられている

 ・・・とは言うものの、病欠の場合は医師が発行した就労不能証明書の提出義務があるため、総合病院でなく個人病院の場合、証明書にある病院名でおおよそ推測できてしまう場合もある。

 以下、添付資料は医師が発行した「就労不能証明書」である。
就労不能証明書2


 ここに書かれてあるのは、
 患者の氏名および現住所と、医師が決定した「就労不能期間」のみであり、病名や病状などは一切書かれていない。が、病院名とその住所が明記されているため、この場合は婦人科系であることがわかる。

 添付資料の例では、
 2018年10月16日から2018年11月1日までが、医師の指定した「就労不能期間」となり、勤務先は如何なる理由があってもこれを覆して出勤を強制させることはできない
 また、この「就労不能期間」は出勤扱いとなるため、給料減額は認められない。※ 就労不能期間の給料が雇用主によって保障されるのは最長6週間まで。

 さらに補足すると、被雇用者の有給休暇取得中に医師が就労不能診断した場合、その就労不能期間分の有給休暇は消化カウントされず、未消化分として戻される

 
 ドイツにおいて、本人の意思で病名を公表していないにもかかわらず職場から病名や病状をしつこく問い質されたり、就労不能期間に出勤を迫られたり、あるいはこの期間の給料を減額されたりした場合、抗議するか、周囲に相談したほうが良い。

 私のように、たとえサインしてしまった雇用契約書に有給休暇の項目そのものが設けられていなくとも、全てのMinijobberには有給休暇が労働法により認められるのである。

 以下は、弁護士が会社に宛てて送付した質問状の一部抜粋である。

Yukyu1


 簡潔に書くと、
 「雇用契約書に有給休暇の規定がなくとも、全てのMinijobberは有給休暇が認められている」のであり、重要なことは、年間有給休暇が何日になるかの計算式は、「週あたり何時間仕事をしたか」ではなく、「週あたり何日出勤したか」による、とある。

 この手紙のお陰で、私の雇用契約書には有給の項目そのものが設けられていなかったものの、退社時に有給休暇分を給料として請求することができた次第である。

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