ドイツ・レストランFumi(ダイデスハイム)元スタッフ被害者の実録記

※ タイトル背景画像:社長自らが一方的に自宅まで押しかけ、ドア外側に張り付けた「不当解雇通知」。弁護士を通じて解雇制限訴訟に踏み切り、不当解雇撤回を勝ち取った。

カテゴリ:ドイツ労働法あれこれ > 就労中の妊娠と出産

 母性保護法24条(ドイツ語原文)
 https://www.gesetze-im-internet.de/muschg_2018/__24.html

 産休期間前に取得権利のあった有給休暇が未消化の場合、産休期間終了後または育児休暇終了後に持ち越される

 仮に、産休後に一年間の育児休暇を取得したとしても、この権利は失わない

 また、育児休暇終了と同時に退職する場合、未消化分は給料として支払われる

 参考資料:実際に提出した辞表 + α
辞表+α
 
 赤線枠内が +α 部分であり、

「2018年10月6日付で弁護士により送付された質問状にある通り、たとえ労働契約書に有給休暇の項目が設けられていなくとも、私には有給取得の権利が認められている。加えて、母性保護法24条により、産休以前の有給未消化分は育児休暇終了後に持ち越され、かつ、育児休暇終了と同時に退職する場合は、有給未消化分は給料として支払われるはずである。よって、我々の労働契約期間終了時に滞りなく支払っていただきたい」

 旨、記載されている。


 本来であれば、赤線枠部分は一般的な辞表には必要のない記述である。

 しかし、契約期間中、雇用主が法律すらまったく無視してマイ・ルールを押し付けてくるような実績が多かった場合、辞表に「未消化の有給休暇分を支払うよう」念を押して書いておいたほうが無難だろう。

 ドイツには育児休暇(Elternzeit)があるが、その規定や申請方式がかなりユニークだ。

    なお、下記に挙げたのはあくまでも規定である。本来であれば、育児休暇申請にあたっては勤務先の上司または雇用主とよく相談の上、双方が納得できる形で申請するのが好ましいのであって、「法律の規定のとおり、内容も期限も守っている」からといって、不意打ちのような形で突然、通告書を突き付けるようなやり方は好ましくないことは言うまでもない。

 しかしながら、雇用主が規定を無視した対応をしてきたりする場合には、守られた権利を主張したほうが良いだろう。


 以下は、ドイツの育児休暇の主な規定である。

 ・育児休暇終了後に職場復帰の意思がない場合でも、育児休暇の取得が認められる。
 ・夫婦同時に育児休暇の取得も可能であり、たとえ夫婦が同じ職場に勤務していても認められる。
 ・育児休暇の申請は、管轄の役所のElterngeld課(直訳:両親手当課=育児休暇手当課)に本人が申請を行うものであり、本人から勤務先に申請したり、勤務先が市役所に申請したりするものではない。
 ・母親のみが育児休暇を取得する場合、育児休暇手当は最長で12ヶ月間である(母子家庭等は別途規定あり)が、父親が2ヶ月以上の育児休暇を申請する場合、母親と父親で合計14ヶ月分の育児休暇手当が支給される
 ・父親が申請する場合、最終月経開始日から計算された出産予定日より遡って7週間前までに書面で雇用者に通知する。申請を通知した父親は、これ以降、育児休暇終了日まで解雇されない。口頭、携帯メッセージ、Eメール等の書面以外の通知は認められない。なお、この通知は一方的な通告であり、雇用者はこれを拒否したり、取得期間について意見したりすることは一切できない


 なお、育児休暇規定には、母性保護法とリンクする重要な点がある。

 母性保護法により、就業中の妊婦の解雇は理由の如何を問わず認められず、且つ、流産・中絶・死産・出産の形態を問わず、「妊婦ではなくなった日」から数えて4ヶ月間は解雇が認められない。

 さらに、
 就業中の妊婦が育児休暇を申請した場合、その育児休暇通知に記載された育児休暇終了日までは如何なる理由があっても解雇されない。且つ、育児休暇期間の有給休暇は12分の1が保証される
 
 育児休暇の終了と同時に退職を希望する場合、終了日の3ヵ月前までに書面での通告が必要である。
 その場合、産休期間以前に遡って未消化分の有給休暇はすべて給料として支払わなければならない

 ドイツで就労中の妊婦は、母性保護法(Mutterschutzgesetz)により、想定され得る様々なケースが、かなり細かく就業規定として定められている。

 Mutterschutzgesetz ドイツ語原文での全文は以下の通り。

 https://www.gesetze-im-internet.de/muschg_2018/
 

 すべての妊婦に当てはまるであろう基本的なものは、次のような点だ。
 以下の条件における妊婦の就労は雇用主側からは強制できない

 ・午後8時以降、翌朝6時以前の就労
 ・日曜日および祝日の就労
 ・妊娠5ヶ月以降、一日あたり4時間を超過する立ち仕事

 但し、以上の条件であっても、妊婦の側から希望する場合は書面で雇用主に通達すれば就労が可能である。
 また、これを妊婦の側から希望し、書面で雇用主に通達した場合でも、母性保護法規定により、いつでも撤回することができる

 以下、添付資料:2018年8月22日に会社側から提示された勤務シフト表
母性保護法規定 
 表中の赤線枠で囲った部分は母性保護法規定に抵触している。
 妊婦の側が自らこの条件での勤務を希望しない場合、拒否することができる。


 なお、母性保護法により、被雇用者が妊娠した場合、妊娠が発覚した時点より遡って3ヶ月間の平均給料が産休期間開始まで保証される勤務開始が妊娠発覚時より後だった場合は、直近3ヵ月の平均給料が産休期間開始まで保証される

 産休期間とは、最終月経から計算された出産予定日の6週間前から始まり、実際に出産した日より8週間後までの期間である。
 ※ 多胎出産(双子)、早産、帝王切開等、難産と認められた場合は実際の出産日より12週間後までが産休期間とされる。

 また、産休期間に入る以前に、妊娠にまつわる原因で、就労の継続が母子の命にかかわることを医師が証明して妊婦が休職した場合、その期間を問わず給料が保証される
 その場合、給料はいったん雇用主より支給されるが、証明書の提出により、その期間の給料はAOK(ドイツ連邦法定健康保険)より雇用主に全額戻される


 つまり、妊娠にまつわるトラブルが原因で被雇用者である妊婦が出勤できなくとも、被雇用者への給料は全額保証され、かつ、その給料分はAOKより雇用者に全額戻されるのだ。そのため、妊婦が雇用者から敬遠されないシステムとなっている。

 ドイツでは、母性保護法により、就労中の妊婦はかなり手厚く守られている。


 以下、添付資料:実際に雇用主に提出した、日曜日に勤務することを承諾する書面
03 oktober-1
 雇用主が母性保護法をまったく把握していない場合もある。
 万一、勤務先から母性保護法を無視した勤務シフトを組まれ、且つ本人がそれを希望しないのであれば、このように母性保護法の原文を掲載したほうが理解されやすいだろう。

 なお、記事『ドイツで就労中に妊娠したら』で述べたとおり、母性保護法により、ドイツにおいて妊婦の解雇は如何なる理由があろうとも認められない

 ドイツにも、いわゆる母性保護法があり、就労する女性が妊娠した場合の細かい規定がある。

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 添付資料:ドイツの母子手帳

 日本と同じく、胎児の心音が確認できた時点で母子手帳が発行され、理論上の出産予定日が医師によって証明される。

 これ以降、あらゆる公的な場において法的に「妊娠中」の扱いとなる。


 さて、勤務先との関係についていえば、
 就労中の女性は「妊娠がわかった時点で」職場に報告義務がある。

 しかしながら、妊娠にまつわるデリケートな諸事情もあるため、具体的に妊娠何週までに報告しなければならないといった規定はない
 極端な話、妊娠がわかったものの、出産するか断念するか、という点で中絶が可能な期限ギリギリまで悩み、結果産まないことにしたというような場合、法的には無理に報告する義務はない。
 或いは、ドイツにおいては誰もが制限なく受診できる出生前診断を希望する場合(つまりは、出産を断念する可能性がある)、その結果を待って報告するというのでも問題ない。


 そして、母性保護法の条文をそのまま邦訳するなら、

 雇用主は、被雇用者から妊娠報告を受けた場合、報告を受けた日より、報告者が「妊娠中」の状態を終了した日から数えて4ヶ月間は、理由の如何を問わず解雇することができない

 補足すると、
 職場に妊娠報告済みだった場合、その後、流産、中絶、死産、出産の形態を問わず、「報告者が妊婦ではなくなった日」から数えて4ヶ月間は理由の如何を問わず解雇されない、ということだ。

 これに対する唯一の例外は「倒産」である。
 なお、事業規模縮小による支店閉鎖等でリストラが必要な場合も、リストラから保護される従業員は法律で優先順位が規定されており、妊婦はその優先順位のトップにある。つまり、完全なる倒産でない限り、事業規模縮小を理由に妊婦の解雇が認められることはまずありえない。


 さらに、雇用主が解雇通告をし、且つその解雇に正当事由があったとしても、解雇通告した日より2週間以内に医師によって妊娠が証明された場合、その解雇は無効となり撤回される

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