ドイツの住居賃貸借法において、大家から借主に退去通告をする場合、最終退去日の3ヵ月前までに告知しなければならない。

 昨年、Josef Biffarに突然契約終了を通告された元同僚も、住居賃貸借法が適用されるはずであった。
 不思議に思い、なぜ一ヶ月以内に退去しなければならないのか聞いてみると、聞いているほうが眩暈を起こしそうな展開になっていた。

 確かに、住居賃貸借法の上では、元同僚は退去通告された日から3ヵ月間は居住権利を失わない。しかしながら、雇用契約の上では、「契約満了による終了、更新なし」となるため、契約終了4週間前の告知で法的に抵触しない。
 この場合、雇用契約の上では、告知された日から数えて4週間は会社に所属する社員であるから、「社員価格」の家賃で居住する権利がある。しかし、4週間後に雇用契約が終了することで、それから先は社員ではなくなるため、「社員価格」が適用されないことになる。
 
 告知から4週間後も継続して一般賃貸契約に移行して居住する場合、家賃が大幅に上がり、かつ、社員であれば要求されない敷金3ヵ月分の支払い、および新しい滞在許可証の提示を求められたという。一般賃貸契約に移行したとしても、それから退去まで最長でも2ヶ月しかないのに、である。

 この時、元同僚は、既に別地域で新たな仕事を始めていたが、突然で、しかもご家族が多いこともあり、ドイツ人でさえ競争率が激しく容易にはいかない家探しに苦戦されていた。
 ただでさえ、新たな地域への引っ越し費用や、引っ越し先にかかる敷金、最初の家賃など、まとまった資金が直ちに必要になることは明らかだ。

 事情を知った、ご家族が通学していた語学学校のクラスメートまでもが、

 「路上に追い出されることになるなら、うちに来て構わないから遠慮なく連絡して」

と申し出るほど、見ていて痛々しい、逼迫した状況になっていた。

 当時、私もJosef Biffarの社宅住まいであったため、うちに来てくださいと申し出ることもできず、ただただ見守ることしかできなかった。

 しかし、この件を目の当たりにしたことで、改めて自分の手元にある賃貸契約書から別紙特約まで隅々を見直すきっかけになり、そこには、「雇用契約の終了と同時に “社宅の” 賃貸契約も終了する」と書かれてあったことに気付いたのだった。